金融・経済ニュース
英国のEU離脱移行期間後も、関税同盟の期限延長に現実味
2018-06-14 10:47:00.0
メイ英首相は17年12月の第1段階協議で南北アイルランド国境問題の解決策としてバックストップオプション条項をEU離脱条約に盛り込むことで合意した。EUが求めるバックストップ条項は、英国のEU離脱後も北アイルランドにEU単一市場・関税同盟ルールを合致させることでハードボーダーを避けるというもの。これに対し、英国がEUに近く提示するとされる新バックストップ条項案には、EUに代わって英国がEU向け製品への関税を徴収する「関税パートナーシップ案」と、ITを駆使して国境検査や関税手続きを最大限簡素化する「マキシム・ファシリテーション案」の2つがある。
今のところ、英国内では2つの新バックストップ案のうち、マキシム案が有力とのメディア論調が多い。関税パートナーシップ案は、英国がEU(欧州連合)向けの製品とそうでない製品の関税の差額を企業に払い戻す取り決めをEU以外の他国と結ぶという複雑なシステムとなる。このため、英国は他国と貿易協定を結ぶことがかなり難しくなるという問題があるからだ。
英紙デイリー・テレグラフは5月12日付で、「EUに輸出した製品が最終的に英国の末端消費者に輸出された場合、輸出業者は最初にEU関税を支払ったのち、英国の安い関税との差額を受け取るための手続きを頻繁に行う必要がある。これは現在の複雑なサプライチェーンを考えれば、かなり難しい」と指摘する。また、「EUの交渉担当者はメイ英首相のこの案は“魔法の発想だ”と揶揄(やゆ)し拒否する考えだ」とし、同11日付でも「歳入関税庁も関税パートナーシップは機能しないと断言している。メイ英首相も代案であるマキシム案に柔軟な姿勢を示し始めたとも伝えている。
英国メディアでは関税同盟の期限延長で閣内が一致したことはソフトブレグジット(穏健離脱)派の勝利との論調が多いが、これは諸事情を勘案した結果だった。特に、英国の自動車業界にとって期限延長が追い風になるという事情がある。移行期間終了後、EUはもとより他国への自動車輸出で高い関税がかけられれば自動車業界にとっては大きな打撃となるからだ。
航空産業も同じだ。18年2月、英航空機部品メーカー、プロデュマックスはフランスの航空機メーカーから英国のサプライヤー(自動車部品・資材供給業者)の入札参加が拒否された。ロイター通信は2月18日、「多くのEU企業はサプライチェーンで英国の企業を使うことを控えている。部品や原材料が関税や規制で国境通過に時間がかかり過ぎ配送遅延を懸念している」と報じている。
また、EU離脱法案の議会承認が保守党造反議員による修正案乱発で大幅に遅れ19年3月の離脱までに間に合わない見通しから、メイ英政権にとって関税同盟の期限延長は渡りに船という事情もある。
メイ英首相が土壇場で造反議員の説得に成功し、これらの修正案を6月12日の下院でひっくり返すことに成功したことの意義は大きい。修正案のうち、最も重要な2案を否決したからだ。一つはEEA(欧州経済領域)に加盟し関税同盟に残ること、もう一つは議会がEUと最終合意した離脱協定にノーといえば、議会が政府に代わって次の選択肢を決めるというものだ。もし、これらの修正案が通れば、大和キャピタル・マーケッツ・ヨーロッパが4月のブログで、「EUと合意した離脱協定に対し、北アイルランド国境問題も含め議会がノーといえば、EU協議は長期化する。もし、EUが再協議を拒否すればノーディールとなるか、あるいは英国で2回目の国民投票が実施され、今度は残留となれば総選挙となる」と分析したように、最悪の事態が予想されたからだ。
ただ、テレグラフ紙は6月13日付で、「メイ英首相がEU残留派の造反議員を説得するため、EUとの離脱協議がノーディールに終わる場合、事前に議会の承認を得るという妥協案をEU離脱派議員に示し合意した」と報じており、ノーディールという選択肢が封じ込められたことはメイ英政権の今後のEU離脱協議にとって重しとなる可能性が高い。
提供:モーニングスター社




