アナリストの視点

20年保有では8割の月で為替差損発生の米ドル、インフレ率の高まりで円高の可能性も

2022-10-13

40年弱の期間で1ドル=150円超の円安は5%、長期投資では為替差損の発生が前提

 「24年ぶりの円安・ドル高水準」や日本銀行による為替介入もあり、何かと話題となることが多い為替レート。投信経由で海外資産に投資を行う場合には、為替変動のリスクを伴うが、投資家としてはどのように考えておくべきだろうか。投信では欧州、単一国などを除くと、米ドル建て資産を対象とする場合が多いため、今回は主に米ドル・円レートを対象とした。

 まず、米ドル・円レートの長期の推移を確認しておきたい。1985年9月のプラザ合意以降、2022年9月までの月末ベースの推移をみると、78%の月(445カ月中347カ月)で1ドル=100円から150円の範囲内で推移していた(図表1参照)。一方、1ドル=150円を超えた月は5%(同22カ月)しかなく、かつその全てが1990年までに出現しており、むしろ100円未満となった月の17%(同76カ月)の方がはるかに多い。今回のように円安・ドル高が進むたびに「日本売り」、「海外への資金逃避」などと表現されることが多いため、中長期的にも円安傾向が強まっているというイメージを持つ投資家もいるかもしれないが、逆に円高局面で「日本爆買い」などと表現されることがほとんどないだけで、実際の米ドル・円レートは40年弱にわたり概ね一定の水準内、もしくはやや円高方向で推移してきた。

 このような傾向がある米ドルに一括投資をした場合で、円ベースでの為替損益のみに着目すると、期間が長期になるほど差損が発生して(投資開始時よりも終了時の方が円高となって)いた。具体的には、為替差損が発生した月は、投資期間10年の場合の58%(325カ月中188カ月)に対し、20年では80%(205カ月中164カ月)、30年では95%(85カ月中81カ月)にも及ぶ(図表2参照)。特に、期間30年で為替差益が得られたのは2022年9月末までの直近の4カ月のみで、足元の急激な円安・ドル高がなければ一貫して差損が発生していたことになる。一方で、為替差益が得られた月をみると、10・20・30年のいずれにおいても年率1%以内が中心で、1%を超えたのは、10年では22%(325カ月中74カ月)となっているものの、20年では3%(205カ月中7カ月)にとどまり、30年ではゼロとなった。つまり、10年以上の投資期間で大きな為替差益を獲得できたことは稀であり、長期投資では為替差損が発生することが前提となる。

過去最大の金利差拡大局面ではむしろ円高に、長期的にはインフレ率の差も重要

 次に、為替レートの決定要因とされるものは多数あるが、その中から金利差と購買力平価の2つについてみてみたい。まず、日米の金利差として2年国債の利回り差(米国−日本)をみると、連動性が高い時期と、他の要因の影響が大きい時期に分かれた。例えば、連動性が高い時期としては昨年末から直近の9月末にかけて、日米の金利差が4%以上に拡大する過程で30円近い円安・ドル高となったのが典型的だ。その他でも、2007年にかけて金利差が4%以上に拡大した過程で16円程度の円安・ドル高が進み、逆に2012年にかけて金利差がゼロに近づく過程では45円以上の円高となり、金利差の拡大局面で円安、縮小局面では円高という傾向が顕著に表れた時期がある(図表3参照)。一方で、他の要因が大きい時期としては、金利差の大きな変動がなくても2013年からの約2年間で40円以上の円安・ドル高となった時期、2020年以降に金利差がゼロに近づく局面でも大きな円高とはならなかった時期などがあり、2013年は日本のアベノミクス下での、2020年はコロナショック後の米国での金融緩和の開始時期と一致する。また、1994年以降で日米の金利差が最も拡大したのは2000年の6%台だが、その過程では円安・ドル高ではなく、逆に20円以上の円高となった。為替レートの重要な決定要因の一つとされる金利差だが、その他の要因で動いた時の見極めが難しい。なお、足元の円安は、対円だけでなく主要通貨に対する米ドルの独歩高という側面を有しており、今後は金利差よりも米国の景気悪化に注目が高まる局面、行き過ぎたドル高の先にプラザ合意を想起させる局面が訪れる可能性がある点には注意が必要だ。

 次に、購買力平価とは、為替レートは通貨の購買力によって決定されるという考え方である。例えば日本で400円のビッグマックが米国では5ドルなら、購買力平価は1ドル=80円(400円÷5ドル)となり、今が1ドル=100円ならば円高方向に進むと考える。一つの商品ではなく、2国間のインフレ率の差に注目して指数化した数値は、国際通貨研究所とOECD(経済協力開発機構)が公表している。国際通貨研究所の開示資料では、計算式は「購買力平価=基準となる為替相場×(日本の物価指数÷外国の物価指数)」としており、「為替相場が購買力平価から大きく乖離している時は、いずれ購買力平価の水準に向かって動くだろうという相場の将来の方向性を知る手掛かりにな」るとしている。実際に同所の公表値をみると、購買力平価は1985年には200円を超えていたが2022年の80円台までほぼ一貫して円高方向に推移し、実際の米ドル・円レートとの乖離は2013年頃までは円高方向、2014年以降は円安方向となったものの、直近を除くと乖離幅は概ね±40%以内におさまっていた(図表4参照)。国際通貨研究所は月次、OECDは年次という違いはあるものの、OECDの公表値でも購買力平価が長期的には円高方向に推移し、乖離は2013年までは円高、2014年以降は円安という大きな傾向に変わりはなかった。一方で、国際通貨研究所の公表値では、2022年9月15日時点の米ドル・円レートの143.57円に対し、同年8月末時点の購買力平価は88.29円と、乖離幅は60%を超える。OECDの2021年の100.41円と比較しても実際のレートはかなり円安方向にふれており、将来的にはどこかのタイミングで円高方向への大きな修正が起きても不思議ではない。

 購買力平価については、短期的な方向性を定めるものではない点には注意が必要で、近年は注目度が下がっているとの見方もあるが、投資家としては為替が金利差だけでなく、インフレ率にも影響を受けるという点を理解しておく意味で重要だ。足元で特に注目されているのは米ドルだが、過去には新興国を中心に高金利通貨や関連投信が人気を集めることがあったが、高金利国はインフレ率も高い場合が少なくなく、そうした国の通貨はある時点で金利収入ではカバーするのが難しいほどの円高・通貨安となり、人気が離散するということを繰り返してきた。米ドルは、信用力や流動性の高さなどでは他通貨よりはとびぬけているものの、インフレ率の差に全く影響を受けないという特別な通貨ではない。

10年リターンでヘッジありがなしを上回った月は2割、長期投資なら時間分散を優先

 では、投信経由で海外資産に投資を行う場合、投資家は為替ヘッジなし・ありのいずれを選択すべきだろうか。モーニングスターのカテゴリー平均の算出開始が2000年1月以降のため、投資期間は10年とし、米ドル・円レートの為替損益と日本を除く先進国債券ファンドのトータルリターン平均とを比較してみたところ、為替損益がプラス、マイナスとなった月はほぼ半々だったが、為替ヘッジありがなしを上回った月は20%(153カ月中31カ月)にとどまり、期間も2016年から2017年に集中していた(図表5参照)。同期間は極端な円高・ドル安になったわけではないものの、2008年の金融危機以降は米国の短期金利がゼロに近い水準に抑えられていたことからヘッジコストも低く推移しており、円高局面で為替ヘッジのメリットを享受しやすかった。

 一方で、2011年から2012年にかけては一時、1ドル=70円から80円台まで円高・ドル安が進む場面もあり、10年の為替損益では年率4%超のマイナスとなる月があったものの、為替ヘッジありがなしの10年トータルリターンを上回ることはほとんど無かった。金融危機前の米国では短期金利が3%を超える時期が長く、ヘッジコストの負担の重さが、為替ヘッジありのリターンを押し下げたためと推測される。以上の点からすると、為替ヘッジのあり・なしの選択については内外金利差の見極めも必要となるが、長期的な動向を適格に判断するのは困難であり、長期投資が前提の投資家であれば為替ヘッジありを選択する必要性は乏しい。むしろ、為替ヘッジなしで投資を行うことを前提に、過去の一括投資では投資期間が長くなるほど為替差損が発生したことを考慮し、時間分散をしながら投資を行うことの方が重要となる。また、基本的な前提として、低金利で低成長とされる日本がダメだからとりあえず海外に投資をしておけば円安メリットも受けられるはずとすれば多くの資産が投資対象となりそうなようにも思えるが、過去の傾向をきちんと把握し、長期的な円高リスクを考慮しても、それに見合う投資対象に分散投資を行う、とするならば対象となる資産もおのずと絞り込まれるはずだ。

(吉田 誠)

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