アナリストの視点

米国は「逆イールド」の発生で景気後退局面入りか、過去には利下げで株安継続の場合も

2022-08-22

米国債のイールドカーブは景気後退への移行期を示す、6度の景気後退入り前には必ず「逆イールド」が発生

 今回は、米国の景気後退入りのシグナルの一つとしてこのところ取り上げられることが多い「逆イールド」をみてみた。そもそもイールド(yield)とは利回りのことで、例えば金利が2%から3%に上がると、現在保有している利回り2%の債券の魅力が乏しくなるため、債券の価格は低下(利回りは上昇)する。この利回りを縦軸に、残存期間を横軸に取った点を結んでグラフ化したイールドカーブ(利回り曲線)は、好況時には右上がりの曲線になりやすく、好況と不況の間の移行期は並行に、不況時には右下がりの曲線となりやすい。実際に、米国債の残存期間が3カ月から30年までのイールドカーブをみると、2021年12月末時点ではほぼきれいな右上がりの曲線だった。しかし、その後は2022年3月末、6月末には全体的な利回りの上昇とともに曲線の傾きが緩やかになり、さらに7月末には10年の利回りが3カ月を除く他の全ての期間を下回ったため、ほぼ横ばいの線となり、好況から不況への移行期特有の変化を見せている(図表1参照)。

 「逆イールド」とは、この国債の利回りの長期債が短期債よりも低くなる(好況期にはより高い長期債の利回りが、不況期には短期債よりも低くなることで「逆になる」)現象のことを指し、長期債としては10年、短期債としては2年を使用することが多い。1978年以降の米国では、(1)1980年1月から同年7月、(2)1981年7月から1982年11月、(3)1990年7月から1991年3月、(4)2001年3月から同年11月、(5)2007年12月から2009年6月、(6)2020年2月から4月の6度の景気後退局面があったが、その全てにおいて事前に逆イールドが発生していたことから、景気後退入りのシグナルとして投資家の注目度は高い。

逆イールドは月末値に注目、連続・長期で発生する傾向あり

 では、この逆イールドを見る場合、どのような点に注目すべきだろうか。第1に、発生、解消などの傾向を見る際には、日次よりも月次の数値に注目したい。例えば日次で見た場合、1998年には5月から7月にかけて複数営業日で逆イールドが発生したものの、同期間中に月末時点で発生したのは6月のみで、この時は景気後退に結びつかなかった(ただし、(4)の起点を同月とする見方もある)。2022年は4月前半に逆イールドが発生したものの、その後は5月と6月にかけて一旦は解消されており、やはり日次での判断は難しい。過去6回の景気後退の6カ月から24カ月前には月末での逆イールドが必ず発生しており、月末ベースでみてもシグナルとしては有効に機能している(図表2参照)。

 第2に、逆イールドは一度発生すると、連続的、かつ長期に発生しやすい。単月の発生にとどまったコロナショック時の(6)の場合を除くと、その他の5回の全てで発生月を除いて2カ月以上(発生月を含むと3カ月以上)連続しており、最長の(1)の場合には景気後退入りの17カ月後も継続し、20カ月連続での発生となった。頻度でみても、(1)と(2)の場合には景気後退入りするまでの全ての月で発生しており、発生が少なかった(3)の場合でも18カ月中6カ月となっている。

逆イールド発生から株価の底打ちまでは2パターン、リーマン・ショックとITバブル崩壊では似た経路を辿る

 第3に、逆イールドの発生から株価の底打ちまでは大きく分けると「短期収束」と「長期折り込み」の2パターンがあり、後者の場合は株価にかなり厳しい。「短期収束」とは(1)、(3)、(6)の場合で、景気後退開始時の前後にはすでに株価は上昇局面入りしていたという特徴を有する。この場合、月末ベースのS&P500指数(米ドルベース、配当なし)では、底打ちまでの下落率は最大でも1割強となっている。ただし、(1)の場合には株価が安値をつけてから1年以内に改めて(2)の逆イールドが発生したことで「長期折り込み」に移行しており、(6)は異例の大規模緩和で景気後退局面を実質的には強制終了させたのに近い。

 一方、その他の「長期折り込み」の場合には、景気後退入後に本格的な株価の下落局面が訪れ、逆イールド発生から株価の底打ちまではおよそ2年以上は必要となった。この場合、株価の下落率も大きくなりやすく、段階的に政策金利の引き下げを行っても、株価が簡単には下げ止まっていないのも特徴的だ。具体的には金融危機時の(5)の場合について主な転換点ごとにみてみると、(ア)逆イールドの発生が2005年12月、(イ)本格的な解消が2007年6月、(ウ)FRB(連邦準備理事会)の利下げ開始が同年9月、(エ)S&P500指数の天井が同年10月、(オ)景気後退局面入りが同年12月、(カ)S&P500指数の底打ちが2009年2月の順となっている(図表3参照)。利下げは、株価の天井、かつ景気後退局面入り前の段階から行われているが、結局、逆イールドの発生から株の底打ちまでの下落率は4割を超え、期間も利下げ開始からだと17カ月、逆イールド発生からだと38カ月を要した。

 ITバブル期の(4)の場合は、(ア)2000年2月、(イ)同年12月、(ウ)2001年1月、(オ)同年3月、(カ)2002年9月と、株価の天井である(エ)が2000年8月と、(イ)の逆イールドの本格的な解消よりも先に出現した以外は、(5)と同様の順序を辿った。逆イールドの発生から株価の底打ちまでの下落率は4割を超え、期間は利下げ開始からは20カ月、逆イールドの発生からは31カ月を要した点もほぼ同じだ。ITバブルの崩壊から当時優良企業との評価もあったエンロンやワールドコムの破綻までに至る大混乱から10年も経たずに、改めて同じような順序を経て、リーマン・ショックから世界的な金融危機を引き起こして、再び世界を大混乱に陥れたという負の側面も米国は有する。米国、FRBは同じ過ちを犯さないというのは、中国が日本の不動産バブル崩壊を研究したから同じような轍をふまないとするのと同じぐらい不確かだ。

株価の低迷時には円高が追い打ちとなる可能性も、基準価額の回復に19年以上を要した場合あり

 以上の過去の傾向について2022年にあてはめてみると、第1の点については、月末ベースでの逆イールドの発生は7月であり、今回はここが起点となるだろう。第2の点については、8月、9月と逆イ―ルドが継続し、その後も断続的に発生するのかが注目される。第3の点については、「短期収束」のケースは例外的な場合が多かった点を考慮すると、「長期折り込み」のケースとなる可能性が高い。もちろん、これらはあくまでも過去の事例からの傾向であり、今回は全く異なる経緯を辿る可能性もある。ただし、その場合にも過去には利下げ後も、実体経済の悪化から株価はさらに下値を模索する展開になったこともあり、景気後退時の株価の低迷は長期、かつ大きくなりやすい傾向があった点は忘れないようにしたい。また、利下げが内外金利差の縮小だととらえられれば、円高・ドル安要因となり、円ベースでの損益は大きく悪化する可能性もある。仮にそうした局面が今後訪れた場合には回復にはかなりの時間を要することを前提に、5年後、その先の10年、20年以降も投資を続けることができるような金額、比率としておくことが重要だ。

 最後に、国内籍の米国株ファンドの長期の運用実績をみておきたい。国内で現存する最古の米国株ファンドは1995年9月設定の「ブラックロック 米国小型成長株式オープン」シリーズだが、小型成長株のみを対象としているため、2番目に古い1996年8月設定の「三菱UFJ NASDAQオープン」シリーズのうち、為替ヘッジなしで投資を行う「Bコース」の基準価額(税引前分配金再投資後)と純資産額の月末ベースでの推移をみてみた。基準価額は2002年2月には当時の最高値となる44,039円をつけたが、その基準価額を再度超えたのは2021年4月になってからで、更新までに19年以上の時間を要した(図表4参照)。下落局面では、2002年9月と2003年2月には一次、ピーク時の約5分の1となる8千円台となったが、本当に厳しかったのはその後で、2008年後半から2009年前半にかけては約8分の1となる5千円台を連続で記録している。純資産額も直近以外で人気が高まった時には200億円前後まで増加したこともあったが、運用成績低迷時の資金の逃げ足も早く、50億円以下にまで減少することが何度もあった。それでも同ファンドのように30年近く運用が継続されれば資産を回復するチャンスも無かったわけではないが、モーニングスターのカテゴリーで米国株式に属するファンドの90本以上がこれまでに償還となっており、意図せざるタイミングで現金化を迫られることも少なからずあった。

(吉田 誠)

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