ロシア関連の一角は3カ月リターンが9割の急落、世界株式には新興国含むで問題ないか
2022-04-14
3カ月リターンのマイナスは金融危機時でも最大7割未満だったが
3月2日にはMSCIとFTSEラッセルが、同4日にはS&Pが主要株価指数からロシアを除外すると発表。流動性の低下などを受けて、同国の株式や債券を主要投資対象とするファンドの中には関連資産の評価額をゼロとしたことにより、基準価額が10分の1程度に急落し、2022年3月末時点の3カ月トータルリターンが約9割のマイナスとなるファンドが3本あった。現存するファンドの中では、2020年に原油価格が一時的にマイナスとなり、同指数連動型ETFの3カ月トータルリターンが約8割のマイナスとなったことがあったものの、それ以外では2008年の金融危機下でもブル・ベア以外で7割を超えるマイナスとなったファンドは1本もなく、9割のマイナスは「異常事態」だ(図表1参照)。
今のところ様々な制裁の対象はロシアに限定されているものの、他国への制裁の拡大や、問題解決までの長期化も懸念されており、影響が広範囲に及ぶ可能性もある。そこで、今回はグローバル株式指数における新興国の位置づけを中心に、改めて新興国への投資やリスクを考えてみた。代表的な株価指数としてはMSCIとFTSEラッセルの算出のものがあるが、運用成績の計算可能な期間が前者は1987年、後者は2002年からとなっていることから、以下ではMSCIの指数を中心に参照した。
直近は先進国優位の乖離が過去最大も、30年のリスク・リターンは新興国含むでもほぼ同一
まず、MSCI算出の代表的な株価指数としては、日本を含む先進国株式の『MSCI ワールド』、新興国株式の『MSCI エマージング』、先進国と新興国をあわせた『MSCI ACWI』がある。MSCIでは、経済発展、市場規模・流動性、市場アクセスの3大基準で、国別に先進国、新興国、フロンティアの3市場に分類、指数を算出しており、そのいずれにも属さない国をスタンドアローンとし、指数は算出していない。今回のロシアは、新興国からスタンドアローンへの2段階格下げである。指数の構成国の見直しそのものは適宜行われており、1国の除外や追加の影響は限定的だ。例えば、2021年にはパキスタンが新興国からフロンティアに1段階、アルゼンチンが新興国からスタンドアローンに2段階それぞれ格下げとなったが、パキスタンは2017年に、アルゼンチンは2018年にいずれもフロンティアから新興国にいずれも1段階格上げされていた。
では、運用成績はどうか。1987年12月末を100(配当込み、米ドルベース)とすると、20年後には『MSCI ACWI』が612、『MSCI ワールド』が590と、新興国を含む『MSCI ACWI』の方が3.87%優位となり、その後も両指数の乖離はさらに広がり、ピーク時の2010年9月末には『MSCI ACWI』が5.86%優位となった(図表2参照)。ただし、その後は両指数が1,000に近づく過程で徐々に接近し、30年後には乖離がほとんどなくなった。近年は逆に米国を中心した先進国株の優位性が目立ち、2022年3月末時点では『MSCI ワールド』が過去最大となる4.37%の優位となったが、直近以外で『MSCI ワールド』が優位に大きく乖離したのは2000年11月の3.01%までさかのぼる必要がある。
指数値のぶれ幅である標準偏差をみても、2022年3月末時点の過去30年間(年率)では両指数ともに14%台と、ほとんど差がなかった。実際、両指数の月次データを折れ線グラフで図表化してみると、多くの部分で重なっているように見える。つまり、過去指数の推移をみる限りでは、10年程度の期間では最大で3~5%乖離する時があるものの、長期的には乖離は解消される傾向にあり、変動率の高さも含めてどちらかの指数を選んだことで明らかな有利・不利はなかったということになる。
新興国では経済成長や人口増が株価の上昇に直結しない可能性も
一方で、新興国を含めても、除いても長期的な運用成績に大きな差はない、ということに違和感を覚える投資家もいるかもしれない。なぜなら、新興国は先進国に比べて成長率が高く、それに伴い株式市場の時価総額やリターンも向上が期待されると説明されることがあり、新興国を含む方がリターンも高くなるとも思えるためだ。実際、世界のGDPに占める新興国の比率は、2002年の20%から2022年には41%となり、2026年にはさらに44%への上昇が見込まれている(図表3参照)。一方で、『MSCI ACWI』に占める新興国の比率は、2010年の10%までは上昇傾向がみられたものの、それ以降は7〜10%の範囲内での推移が続いており、GDPほどの大きな伸びがみられない。その理由としては、2010年以降の中国株式市場の低迷もあるが、そもそも新興国全体として政治、経済、社会情勢のカントリリーリスクが高く、経済成長と株価が先進国ほどには連動しにくいといった要因もある。例えば、米国では大統領に強力な権限を付与する一方で3選を禁止しているが、ロシアでは現職及び大統領経験者については任期を「リセット」する規定を定め、中国では国家主席の3選禁止規定を撤廃したのが現政権だ。今のウクライナや香港の状況は、極端な権力の集中、政権の長期化と全くの無縁ではない。
新興国の成長率の高さの前提として、人口の多さや増加率をあげることも多いが、この点はどうか。1990年に日本の人口を上回っていたのは中国、インド、米国、インドネシア、ブラジル、ロシアの計6カ国だが、国連の予想(中位推計)では2050年にはこの6カ国に加え、ナイジェリア、パキスタン、エチオピア、コンゴ共和国なども日本を上回るが、欧州に目を向けると現在の人口が8千万人のドイツ、7千万人のフランスや英国も2050年に向けてほぼ横ばいだ。日本よりも人口が少ない欧州各国は全て魅力なし、もしくは日本を除いても単純に「欧州売り、アフリカ買い」とはならないであろう。新興国で人口の増加とともに経済が成長するためには、多数の雇用を吸収できる製造業の発展、インフラの整備、政治体制の確立などが必要で、それらが伴わない人口増は雇用の不安定化、犯罪の増加、汚職や不正の横行などにより、むしろ国の発展を疎外する可能性があるとの指摘もある。人口の増減を過度に重視して投資スタンスを決めることは避けたい。
新興国含むなら1本で投資可能も、不安なら新興国を避けても問題なし
では、実際に指数連動型ファンドに投資を行う場合、どうような選択肢があるだろうか。新興国を含むに1本で投資するのであれば『MSCI ACWI』連動型、『FTSE Global All Cap』 連動型のいずれも選択可能だ。MSCIとFTSEとの国別では、(1)韓国とポーランドがMSCIでは新興国に含まれるが、FTSEでは先進国に含まれる、(2)ペルーはMSCIでは新興国に含むが、FTSEでは含まれない、(3)ルーマニアとパキスタンはMSCIではフロンティアに含まれるが、FTSEでは新興国に含まれるという3つの点が異なる(図表4参照)。さらにFTSEは小型株までカバーしており、組入銘柄数が多いといった違いもあるものの、両指数の運用成績にはこれまでのところ大きな差はなかった。一方で、先進国のみ投資を行うのであれば、『MSCI ワールド』連動型は国内では東証上場の外国ETFしかなく、実質的には『TOPIX』連動型と『MSCI コクサイ』連動型の2本の組み合わせ、もしくは『FTSE Developed All Cap Index』連動型から選ぶことになる。
そもそも新興国を含むのか、除いて先進国のみとするのかの選択については、過去の運用成績、新興国特有のリスク要因、指数の中身をふまえた上で、指数連動型で分散投資するのであればいずれでも問題ないだろう。ただし、ウクライナ関連の報道の中にはかなり衝撃的ものもあり、新興国への投資が不安になったなどであれば、無理に新興国を含むとする必要はない。あくまでも自分のための、未来のための投資であり、気が進まないこと、やりたくないことを我慢してまで投資する必要はないからだ。その我慢や努力ができるなら、もっと別のことに使った方がいい。
なお、今回の9割超の急落の「異常事態」の発生は、特定の国や資産に偏ってないか、当初予定していたよりも過大にリスクを取り過ぎてないか、改めて確認する機会にもしておきたい。100万円の投資金額が一時的にでも10万円に減少すれば、もう一度100万円に戻すためには10倍のリターンが必要にある。例えば、『MSCI ACWI』に1987年12月から投資を開始していたとしても、10倍になったのは米ドルベースで30年後、円ベースでは32年後だ。また、極端な過剰流動性の中で、株価は下がってもすぐに戻る、金利は低いままという前提条件は変わりつつあり、「正常化」の過程では変動率が高い状況が続く可能性がある点にも注意が必要だ。金融危機時に月間で最も急落したのは2008年10月だが、最終的に底打ちした2009年2月末までに『MSCI ACWI』は米ドルベース、円ベースのいずれでもさらに2割下落した。金融そのものの問題だった当時とは異なり、今は戦争における人命の救済や安全の確保、物価上昇に伴う生活の困窮の解消の優先度の方が高く、仮に一時的に株価が大きく下がる、ファンドや金融機関が投資の失敗で大きな損失を出して存亡が危ぶまれたとしても、過去のように利下げが行われたり、何らかの救済策がとられない可能性がある。
(吉田 誠)